ANTT

J-IVCARES 公式日本語版

ANTT®
無菌非接触操作

Aseptic Non-Touch Technique

すべての侵襲的手技に・すべての診療現場に
感染から患者を守るための国際標準フレームワーク

Association for Safe Aseptic Practice (ASAP)  ·  V6.0  ·  2024年
30カ国以上
世界での導入実績
88%
英国NHSトラストが採用
31人に1人
入院中にHAIを発症(世界平均)
170万件/年
米国の医療関連感染発生数

ANTTフレームワーク全文・各論資料

ANTT臨床診療フレームワーク(日本語版)の全文PDFおよび各論ガイドライン(手技別)は以下よりご覧いただけます。

ANTT® Copyright © 2024 The Association for Safe Aseptic Practice (ASAP). All rights reserved. V6.0
日本語版提供:J-IVCARES(日本血管内留置カテーテル研究協議会)

無菌操作に、はじめて共通言語を

ANTT(Aseptic Non Touch Technique:無菌非接触操作)は、すべての診療場面・すべての侵襲的臨床手技を対象として設計された、独自の理論体系と臨床実践枠組みを持つ無菌操作技法です(NICE, 2012)。

歴史的に、「無菌操作」「滅菌操作」「清潔操作」といった用語は曖昧なまま使われ続け、世界中の医療現場でその解釈にばらつきを生じさせてきました。ANTTは1995年にこの課題を解決するために開発され、現在では英国NHS(National Health Service:英国国民保健サービス)の標準無菌操作として実証され、オーストラリア・ウェールズ・アルジェリアなど各国の政府レベルでも推奨・義務化されています。

心肺蘇生法(CPR)に普遍的な手順と用語があるように、ANTTは無菌操作に同等の「国際標準と共通言語」を提供します。

J-IVCARES による日本語翻訳について 本フレームワークはASAP(安全無菌法実施協会)による公認のもと、J-IVCARESが日本語訳として提供しています。

医療関連感染は、今も深刻な課題です

外科的手術・留置型医療器具の挿入・創傷管理といった侵襲的手技は医療を大きく進歩させましたが、同時に感染リスクという代償をもたらします。英国では年間約65万3,000件の医療関連感染(HAI:Healthcare-Associated Infection)が発生し、約2万8,000人が死亡しているとされています(Guest ら, 2020)。

さらに問題を深刻化させているのが、世界的な薬剤耐性(AMR)の拡大です。2019年には世界で少なくとも127万人がAMRに直接関与した死亡を経験しました(Murray ら, 2022)。感染治療の選択肢が減少しつつあるいま、予防こそが最重要であることは明白です。

多くの医療関連感染は本来予防可能ですが、感染予防が十分に機能していない中心的要因の一つが、無菌操作の不適切な実践水準です。ANTTの適切な実施は、この現状を改善する最も重要な手段のひとつです。

3つの汚染経路:空気汚染・手指の接触汚染・物体・表面汚染

ANTTを理解するための重要用語

ANTTは、無菌操作に共通言語を確立するため、独自かつ明確に定義された用語体系を持ちます。以下の概念を正確に理解することが、安全な実践の第一歩です。

Key-Part(キーパーツ)
処置器具のうち、汚染された場合に感染を引き起こす可能性が最も高い部分。シリンジ先端、輸液ラインの接続部などが該当する。
Key-Site(キーサイト)
微生物の侵入門戸となり得る部位。開放創、カテーテル挿入部位、穿刺部位などが含まれる。
Aseptic Field(無菌野)
Key-Partを環境汚染・接触汚染から保護するための作業空間。Critical・Micro Critical・Generalの3種類がある。
Critical Aseptic Field
通常は滅菌ドレープ。Surgical-ANTTで使用し、Key-Partの無菌状態を「確保」する中心的な無菌野。
Micro Critical Aseptic Field
滅菌キャップ・カバー・開封直後の滅菌包装内部など、Key-Partを個別に保護する小型の無菌野。
General Aseptic Field
消毒済みの処置トレーなど。無菌状態を「確保」するのではなく「促進」するための作業面。
Non-touch technique
(非接触操作)
Key-PartおよびKey-Siteを、他の無菌的なKey-PartまたはKey-Site以外には一切触れさせないという基本的かつ重要な臨床技能。

5つの原則と4つの感染防護策

ANTTは5つの根本原則と4つのセーフガード(感染防護策)によって構成されています。これらを理解・実践することが、安全で効率的なANTTの根幹となります。

1

微生物に対する考え方

有害な微生物はあらゆるケア環境に常に存在する。そのリスクを正しく認識・制御することがANTTの根幹である。

2

無菌状態の達成が目標

すべての侵襲的手技において、外科から地域医療まで「無菌状態(Asepsis)」の達成が共通の実践目標である。

3

Key-Part・Key-Siteの保護

無菌状態は、医療従事者・周辺環境からの微生物汚染からKey-PartとKey-Siteを保護することで達成される。

4

2種類のANTT

安全かつ効率的に実践するため、複雑な手技にはSurgical-ANTT、単純な手技にはStandard-ANTTを用いる。

5

技術的要因によるリスクアセスメント

どちらのANTTを使用するかは、Key-Part/Key-Siteを無菌に保護することの技術的難易度によって判断される。

Safeguard 1

標準予防策(Standard Precautions)

環境管理・手指衛生・表面清拭・機器の洗浄消毒。臨床手技の前・中・後すべての段階で適用される。

Safeguard 2

Key-Part・Key-Siteの識別

汚染されると感染を引き起こすリスクが最も高い器具の重要部分(Key-Part)と、感染の入口となる部位(Key-Site)を正確に識別する。

Safeguard 3

Non-Touch Technique(非接触操作)

Key-PartとKey-Siteを微生物汚染から保護するための基本的かつ重要な臨床技能。Standard-ANTTでは必須。

Safeguard 4

無菌野(Aseptic Field)の管理

手技の複雑さに応じてCritical・Micro Critical・General Aseptic Fieldを適切に選択・管理する。

Standard-ANTT と Surgical-ANTT

ANTTは安全であると同時に効率的でなければなりません。そのため、手技の複雑さに応じて2種類の方法を使い分けます。重要なのは、どちらも目的は同じ「無菌状態の達成」であるという点です。

Standard-ANTT

標準ANTT

  • Key-Partの数が少なく、サイズが小さい
  • 高い侵襲性を伴わない手技
  • 無菌状態の維持が技術的に容易
  • 所要時間が短い(概ね20分未満)
  • Key-Partを個別にMicro Critical Aseptic Fieldで保護
  • 未滅菌手袋または手袋なし
  • 非接触操作は必須
Surgical-ANTT

外科用ANTT

  • Key-Partの数が多い、またはサイズが大きい
  • 高度に侵襲的な手技(中心静脈カテーテルなど)
  • 無菌状態の維持が技術的に複雑
  • 所要時間が長い(概ね20分以上)
  • すべてのKey-Partを滅菌ドレープ(Critical Aseptic Field)上にまとめて配置し集団的に保護
  • 滅菌手袋・外科的手洗いが必須
  • 非接触操作が望ましい

ANTTリスクアセスメント — どちらを選ぶか

「Key-PartやKey-Siteに触れずに、この手技を実行することは技術的に容易か?」
はい→ Standard-ANTT

Key-Partを個別に保護できる単純な手技。末梢静脈カテーテル挿入・静注薬投与・静脈穿刺など。

いいえ→ Surgical-ANTT

複雑・長時間・高侵襲の手技。中心静脈カテーテル挿入・複雑な創傷処置・外科的手技など。

手指衛生の5つのタイミング

効果的な手指衛生はANTTの根幹です。世界保健機関(WHO, 2009)が定める「手指衛生の5つのタイミング」は、ANTTを補完し、侵襲的手技における患者汚染リスクを低減します。

1

患者に触れる前

患者に近づいたり触れたりする前。あなたの手の有害微生物から患者を守るため。

2

清潔・無菌操作の前

採血・挿入操作・処置機器への接触など清潔または無菌の処置を行う前。

3

体液曝露リスクの後

体液・排泄物・粘膜・傷・手袋に触れた後。自身や院内環境を守るため。

4

患者に触れた後

患者に触れた後、または触れ終えた直後。患者からあなたや周囲への菌伝播を防ぐため。

5

患者周囲環境に触れた後

ベッド柵・テーブル・周辺物品などに触れた後。環境の微生物が院内に広がるのを防ぐため。

手洗いの方法: 石けんと流水による手指衛生は40〜60秒、アルコール製剤による手指衛生は20〜30秒が目安です(WHO, 2009)。 手洗い用シンクは飛沫範囲(splash zone)に注意が必要であり、静脈路確保用器具はシンクから2メートル以上離れた場所に保管することが推奨されます。

手技別・ANTTタイプ選択の目安

以下は、代表的な臨床手技ごとのANTTタイプ選択の目安です(付録3より)。各施設の方針や個別の状況に応じて判断してください。

手技ANTTタイプ主なポイント
末梢静脈カテーテル挿入StandardKey-Part少・侵襲性中程度・手指衛生・未滅菌手袋・Micro Critical AF
中心静脈カテーテル挿入(CVC・PICC)SurgicalKey-Part多・高侵襲・外科的手洗い・滅菌手袋・Critical AF(滅菌ドレープ)
静注薬の準備・投与StandardKey-Part少・侵襲性中程度・手指衛生・未滅菌手袋・エプロン・General AF
静脈穿刺(採血)Standard侵襲度低・Key-Part少・手指衛生・未滅菌手袋・Micro Critical AF
複雑な創傷ケア・ドレッシングSurgicalKey-Site広い・Key-Part複数・滅菌手袋または未滅菌手袋・Critical AF
複雑な外科的手技Surgical手術室レベルの予防策・外科的手洗い・滅菌ガウン・滅菌手袋・器械出し看護師

※ 上記は目安であり、各施設の方針・個別の状況・実施者のコンピテンシーによって判断すること(付録3より)。

ANTTは今、世界標準へ

ANTTは1995年の初版以来、世界30カ国以上でさまざまな形で導入されています。国家レベルでの義務化・推奨から、医療機関が自発的に採用するケースまで、その広がりは急速です1

英国イングランド NHS における無菌操作標準の変遷1

2001年(導入前)

ばらつき
が大きい
複数の方式が混在 55%
ANTT一部採用 25%
その他 15%
不明 5%

2020年(普及後)

81%ANTT
単独採用
ANTT単独採用 81%
ANTT併用 12%
その他 7%

✓ 93%のトラストがANTTを採用

主要国・地域でのANTT採用状況

🇬🇧 英国 England NHS単独採用88%
88%
🏴󠁧󠁢󠁳󠁣󠁴󠁿 英国 Scotland NHS単独採用56%
56%
🏴󠁧󠁢󠁷󠁬󠁳󠁿 Wales(ウェールズ) 政府義務化(2015年)100%
義務化
🇦🇺 オーストラリア NHMRC(National Health and Medical Research Council:オーストラリア国立保健医療研究評議会)推奨(2019年)推奨
国家ガイドライン推奨
🇩🇿 アルジェリア 政府義務化(2019年)100%
義務化
🇺🇸 米国 INS(Infusion Nurses Society:米国輸液看護学会)の輸液療法基準で採用(2021/2024年)採用
INS輸液規格標準採用

FAQ

「清潔操作」と「ANTT(無菌操作)」は何が違うの?

「清潔操作(Clean Technique)」は本来、比較的単純な処置で無菌状態を達成するための簡易的な手技を指す歴史的用語でした。しかし時間とともに「無菌である必要はない」と誤解されるようになり、患者を感染リスクにさらす原因となってきました。ANTTでは、どのような手技においても目標は常に「無菌状態(Asepsis)の達成」であると明確に定義しており、「清潔操作」という用語は使用しません。

「滅菌操作」と「無菌操作」はどう違う?

「滅菌(Sterile)」とはすべての生存微生物が存在しない状態を意味しますが、空気中には常に微生物が存在するため、通常の医療環境で「完全な滅菌状態」を維持することは定義上不可能です。一方「無菌状態(Asepsis)」とは「有害な微生物が存在しない状態」を意味し、現実的かつ達成可能な目標です。ANTTはこの「無菌状態の達成」を実践目標とし、「滅菌野(Sterile Field)」という用語は使用しません。

Standard-ANTTとSurgical-ANTTはどう使い分ける?

「Key-PartやKey-Siteに触れずにこの手技を実行することは技術的に容易か?」という問いがリスクアセスメントの判断基準です。容易であればStandard-ANTT、困難であればSurgical-ANTTを選択します。患者の年齢や診断といった主観的な基準ではなく、手技の技術的難易度で判断することがポイントです。

ANTTは在宅・地域医療でも使えるの?

はい。ANTTは「外科から地域医療まで(From Surgery to Community Care)」を包含するよう設計されています。在宅医療など一部の環境では無菌状態の達成が現実的ではないと考える医療者もいますが、ANTTの原則では「すべての診療環境において無菌状態の達成が共通目標」と明確に定めています。環境に応じて物品供給や保管のロジスティクスを工夫しながら実践することが求められます。

ANTTの教育・認定制度はあるの?

ASAPはANTT認定制度(ANTT Accreditation Programme)を提供しており、教育・査定・ピアレビューを通じて実践の質を保証する体系的プログラムです。ANTTに関する無料の教育・監査・能力評価リソースはwww.antt.orgから入手可能です。J-IVCARESでは今後、日本国内での教育支援を推進していく予定です。

References

1Rowley, S., Clare, S. (2020) How widely has ANTT been adopted in NHS hospitals and community care organisations in England and Scotland? British Journal of Nursing. 29(16), 924–932.
2Guest, J.F., Keating, T., Gould, D., Wigglesworth, N. (2020) Modelling the annual NHS costs and outcomes attributable to healthcare-associated infections in England. BMJ Open. 10(1), e033367.
3Murray, C.J.L. et al. (2022) Global burden of bacterial antimicrobial resistance in 2019: a systematic analysis. The Lancet. 399, 629–655.
4Centers for Disease Control and Prevention [CDC] (2022) Healthcare-associated infections (HAIs). Division of Healthcare Quality Promotion (DHQP). Available at: https://www.cdc.gov/policy/polaris/healthtopics/hai/index.html [Accessed: 16/10/2023].
5National Institute for Health and Care Excellence [NICE] (2012) Infection: prevention and control of healthcare-associated infections in primary and community care. Clinical Guideline CG139. London: NICE.
6Gorski, L.A., Hadaway, L., Hagle, M., Broadhurst, D., Clare, S., Kleidon, T., Meyer, B., Nickel, B., Rowley, S., Sharp, E., Alexander, M.A. (2021) Infusion therapy standards of practice. Journal of Infusion Nursing. 44(Suppl.1).
7Nickel, B., Gorski, L., Kleidon, T., Kyes, A., DeVries, M., Keogh, S., Meyer, B., Sarver, M.J., Crickman, R., Ong, J., Clare, S., Hagle, M.E. (2024) Infusion Therapy Standards of Practice, 9th Edition. Journal of Infusion Nursing. 47(1S), S1–S285.
8National Health and Medical Research Council [NHMRC] (2019) Australian Guidelines for the Prevention and Control of Infection in Healthcare. Canberra: Commonwealth of Australia.
9World Health Organisation [WHO] (2009) Guidelines on hand hygiene in healthcare. Geneva: World Health Organization.
10Rowley, S., Clare, S., Macqueen, S., Molyneux, R. (2010) ANTT v2: An updated practice framework for aseptic technique. British Journal of Nursing. 19(5), S5–S11.
11Garvey, M.I., et al. (2023) The sink splash zone. Journal of Hospital Infection. 135, 154–156.

※ 上記はANTT臨床診療フレームワーク(V6.0, 2024)に記載された主要引用文献の一部です。全文献リストはフレームワーク原文(pp.32–35)を参照してください。