京都桂病院 副院長・救急科部長
寺坂勇亮
今回、インドの主要都市を7泊9日で巡り、現地の病院や医療現場を視察してきました。人口世界一、経済成長著しいインドですが、医療の現場は公立・私立、都市・地方で大きな格差があります。実際に足を運び、PICCを中心とした血管アクセスデバイスの現状や課題を肌で感じた体験をレポートします。日本とは異なる現地のリアルな医療事情をお伝えできればと思います。
インドの4つの大都市を7泊9日で巡る 過密ツアー

https://www.ac-illust.com/main/search_result.php?word=%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%89%E5%9C%B0%E5%9B%B3
6病院のPICC環境の見学と講義


各都市で腫瘍内科、血液内科、放射線科、集中治療科、小児科領域のKOLを集めてPICCに関するパネルディスカッション
なぜインド? インドの医療事情

外務省ホームページ https://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/medi/asia/india.html
- 広大な国土で人口世界一位
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インドは世界最大の人口を有し、約14億5000万人が広大な国土に暮らしています。国土面積は日本の約9倍で、世界第7位の規模です。民主主義と言論の自由が確立されており、巨大な市場と若い人口構成が特徴です。平均年齢は約28歳で、人口ボーナス期にあり、これは日本の約48歳と比べて大きな違いです。
- 急速な経済成長
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近年、インドの経済成長は著しく、2024年の政府発表によればGDP成長率は8.5%に達しました。名目GDPは約3兆9100億ドルで世界第5位となり、2025年には日本を抜く見通しが示されています。一人当たりGDPは2697ドルで、経済的にも日印関係は強化されています。
インドの医療情勢 https://bharat-hub.com/india-medical-care
医療面では、人口10万人あたりの医師数は約80人と日本の約250人に比べて少なく、公的医療保険の普及率は25%程度にとどまっています。日本の国民皆保険制度とは異なり、医療格差が顕著です。公立病院は資金不足と過密状態に悩まされ、十分な医療サービスを提供できていない一方、私立病院では高度な医療が提供され、経済的余裕のある人々が利用しています。
インドの救急車事情 https://www.shutterstock.com/ja/search/india-ambulance
救急医療については、病院や救急車サービスに自ら連絡する必要があり、都市部でも到着まで30分から1時間かかることが多いです。救急車の料金は現場で交渉される有料制で、基準を満たしていない車両も存在します。ドライバーのみの場合もあります。


都市部は交通渋滞が深刻です。公的な救急医療システムにも地域格差が存在します。
インドの医療格差は激しい
公立と私立 地方と都市



公立病院では廊下や階段など至る所に患者が溢れ、私立病院は落ち着いた環境で海外からの医療ツーリズムも盛んです。医療機器や設備の質にも大きな差があり、最新機器を導入している施設もあれば、衛生面に課題を抱える施設も見られます。インドは地域ごとに言語、宗教、経済状況、人種が異なり、多様性を前提とした社会の中で、それぞれの環境に応じて医療サービスが提供されています。

地域によって言語、宗教、貧富、人種も様々であり、それを受容しています。
インドでは、地域ごとに言語、宗教、経済状況、人種が多様であり、それぞれの違いを受け入れながら社会が成り立っています。こうした多様性を前提とした混沌と格差の中でも、人々は逞しく生活しています。
生活、経済、医療のあらゆる分野で格差
インドでは、人口増加と格差が混在する社会の中で、それぞれの立場や地域に応じた医療サービスが提供されています。日本とは異なり、医療サービスの質やアクセスに大きな差が存在することを認識した上で、血管アクセスデバイス分野のニーズや課題を検討する必要があります。ガイドラインで「正しい」とされる方法が、必ずしも現場で実践できるとは限らないため、現状を踏まえて最適な選択を提示することがインドの医療サービスの特徴です。
次回はインドのPICC事情に迫ります!
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